うたた寝  〜CP別、一考察
 




   
進さんVer.



 1日の終わりといった感の漂う、どこか落ち着いた空気の満ちた、帰りの車中。特に言葉を交わすことがなくとも、そこは慣れが出てか、気まずさはなくて。彼の伸びやかで優しい声は、聞けるものならいつだって聞いていたかったけれど、静かにしているのは…もしかして。だとすれば、このままそっとしていなければと思った矢先に、

  ――― ぽそん…と。

 二の腕へ触れていた温みに少々重みが増したのと同時、うなだれた頭までが凭れ掛かって来た気配があって。おや、と。僅かほど、顔をそちらへ向けてみれば。小さな連れが、とうとう うとうと。安らかな転寝に入った模様。今日は少しほど足を伸ばしての遠出をしたから、さあ帰ろうかという段になって、安寧のまま、気が緩んでしまったのだろう。湾岸沿いはベイエリアにある某水族館まで、二人して出掛けたその帰りだ。魚類だけに留まらない、ペンギンやアシカ、カメにサメなどなどという、広範な海洋動物の展示とそれから。ステージを設けた屋外プールにての、イルカたちのショーも人気だそうで。また、周囲を取り囲む敷地内には、海側への素晴らしい眺望が自慢という、小高い展望台を真ん中に据えた緑地公園もあり。絶好の行楽日和、それは清々しい好天に恵まれた1日を過ごすにあたって、

  『今日だけは、のんびり過ごしましょうね?』

 いいお天気になりますようにと何日も前から なむなむってお祈りしてましたなんて、どこまで本気か語ってくれた小さな恋人くんが。現地へ着いて早々、改札を出がてら振り返り、もうすぐ二十にならんというのに…いまだにやわらかな造作の童顔を甘くほころばせ、それは晴れやかに笑ってくれたのが。清十郎さんには一番に嬉しい和みであったりしたのだが。
“………。”
 九月の声とともに、大学の各リーグでは総当たりの“秋の公式戦”が始まっていて。週末は必ず、土曜か日曜のどちらかが試合で埋まってしまうスケジュール。それが当然…と、なるところだったが。アメフトは広大なフィールドを必要とするスポーツなだけに、きちんと整備された試合会場の数がさすがに限られているところへ持って来て、一斉に1部から3部、エリアリーグに歯科医科大リーグと、全部を合わせりゃ結構なチーム数のゲームを消化することとなり。しかもしかも、他のスポーツの選手権もこの時期にはあれこれ重なるその上、一般の方々の運動系の催しだって引きも切らずとなる季節だから、と来て。続けざまの日程表にぽっこり空いた、試合のない週末というのが、1シーズンに1度や2度はどうしても巡り来る。スポーツ選手にとっては、鍛練を日々連綿と継続して習慣づけることもまた、コンディションの持続には欠かせない要素であり。体のメンテナンスを考えたなら、休養は勿論のこと大切だけれど。だからといって、休養のための急停止が、シーズン内でのモチベーション維持における“退歩”になっては何にもならない。よって。たとえ“試合”がなかろうと。やったラッキーvv 何にもしない骨休めの休養日vv なんて訳にも行かない筈………なのだけれども。

  『進くんは、わざわざ予定なりメニューなりを言い付けとかないと、
   いっくらでも練習に明け暮れて、
   揚げ句にオーバーワークしてしまいかねない人ですものね。』

 さすがチームの端々までよく見てござる、敏腕さでは秀逸な、1年先輩にあたるマネージャーさんが、苦笑混じりにそうと言い。そういえばまだ高校生だった時からお顔を合わせておりましたねという間柄、R大学のデビルバッツ所属、小早川瀬那くんへと宛てて、ご迷惑でないのなら…と何やら打診をしたらしくって。丁度こちらも同じ理由から、2週間ほど ぼこぉっと試合のないインターバルになった、そのど真ん中。金髪のジェネラル様は、ここまでの全チームの戦歴から後半戦のシュミレーション込みの資料整理に没頭するとかで。週末は自主トレしてろと厳命した上で、どこぞかへお籠もりしてしまわれる予定らしくて。
『だからあのその。日課の分のトレーニングをちゃんとこなせば、それ以外に息抜きをしたって叱られはしないと思いますので。』
 気分を変える遠出へと、一緒に出掛けませんかとわざわざ誘ってくれた優しい子。他所のチームの人間へまで助け舟を請うほどの、こうまでの裏技を繰り出して、マネージャー嬢が 進へと心配したものは恐らく。あまりのオーバーワークが目に余ったからに違いなく。功名心なんてものには縁も関心もない、いっそ機械であると思ってもいいほどに、至って淡々としている大学最強のラインバックさんには。無理をしてまで強さに焦がれ、その結果として気が急いての無茶を連ねるような、向こう見ずではないということくらい、チーム内の誰にだって判っているが。それにしたって…だったらだったで。自分の体は自分が一番よく知っている…だなんて、今時じゃあ団塊の世代の方々でも言いそうにない頑迷な言いようをして。止まって休めない回遊魚のように、自分へと負荷をかけ続ける彼であろうからということもまた、誰へでも容易に想像出来ることであったりするものだから。
“毎日の練習ぶりを見ている訳でもないのに。”
 メールで語った覚えもなければ、それぞれに忙しいのだ、逢う機会も減っている。なのに、ああそういうところなんだろうなと。離れていても九分九厘、把握されている。そんなにも進歩がないのだろうかと訊いてみたこともあったが、困ったように、なのに…それはにこやかに笑ったセナは、
『何を言ってますか。』
 ボクが何でも判るんじゃなくて。進さんが、何でも伝えてくれるようになったからですようと。覚えのないこと、言われてしまって、ますます“???”と首を傾げたのを思い出す。
“………。”
 あまりに近すぎて、ここからでは寝顔が見えないが。恐らくはいつもの稚いお顔で、すうすうと寝息を刻んでいるに違いなく。まずはと様々な魚や動物たちを眺めて回り、施設内の小高い丘、陽だまりに白く晒された綺麗な石段を歩いて登って、見晴らし台のある広場まで上がって、それから。
『お弁当、作って来たんですよ?』
 それもまた、強靭な体を作るためにと、熱量とバランスと消化にかかるだろう時間とを、きっちりと計算した上で、決まったものを食べてる進であることを、王城ではもう常識になってるくらいだよなんて聞いて、セナがビックリしていた頃もあったが。いくら何でもこういう場合は、普通一般の食事をする側の彼に合わせるようになって久しくて。セナの手で頑張って大きめに握ったらしいおむすびに、出し巻き玉子と鷄の香草焼き。キュウリの塩揉みに、煮物はこれも頑張って昨夜のうちに下ごしらえして作っておいた筑前煮。デザートにはハウスみかんを用意して…と、バランスも重視してのお手製の品々を広げていただき、
『…これを準備して来たのか?』
 毎日家事を手掛けている彼でもあるまいに、香草鷄1つ取っても結構な手間の要るメニュー。参考までに、一体何時に起きたのかを問うと、
『ランニングの時間もほしかったんで、4時半に起きました。////////
 手慣れていれば、そんなにも余裕をみなくて良かったんですけれどと。えへへぇと照れたように笑っていたが、それもあってのこの転寝なのだろうと思われて。何でも掬い上げてくれる懐ろの深さも相変わらずなら、誰かのためにと骨惜しみをしないところも変わっておらず。
「………。」
 だってのに、凭れてきた重みは何ともほわほわと、小さくも愛らしくって。壊さぬようにと、守ってやらねばと胸の奥底から思ってしまう、稚さも可愛らしさも健在で。しかもその上、来年には同じ土俵、一部リーグへ上がって来る気満々の、そちらも重々楽しみな、いくらでも伸びしろのある“強
つわもの”ランニングバックさんであったりし。

  “………恵まれ過ぎているな。”

 どれほどのこと自己中心的に過ごして来たか、その延長でどれほどの人たちを、差し出された思いやりごと気づかない格好にて、それと知らずに傷つけて来た自分であったか。想像ですら総数が知れないってほどもの罰当たりだっていうのにね。そうと仄かに気がつけたほどに、知らないまんまで“良し”として済ませていたあれやこれやを、雑音なんかじゃないですよと気づかせてくれた優しい君。繊細でちょっぴり怖がりで。だからこそ知っている心の痛みや辛さというもの、寂しいという切ない感情を、こんな自分の中からでさえ掬い取ってくれた、懐ろの尋の広い、それはそれは愛しき人。
『だって進さんは大切な人だから。/////////
 当たり前じゃないですかと。最近はそんな風にも言ってくれるようになった、そうすることで甘えてくれるようにもなった、ますますとこちらを甘やかすことへ手ぐすね引いてるような節のある小さな恋人さんは。この秋、またぞろ手強
ごわくもなるから。

   “勿論、楽しみに待っているからな。”

 毎年の少しずつ、ぐんぐんと着実に成長を続けている好敵手への敵愾心も、忘れちゃいません、仁王様。されど今は…今だけは。くったり萎えての転寝にひたってる、それは愛らしい大切な人を。ただただ見つめて過ごしてる、どこにでもいるだろう恋する青年の眼差しをして。それは温かい想いを道連れに、帰途の道中を堪能している真っ最中でありましたとさvv



  〜Fine〜  06.10.20. 
(笑)


  *こちらのお二人は、ウチの原作拡張Ver.の方の、
   時間軸にて書かせていただきましたvv
   原作サマの方もなかなかに息をもつかせぬ展開続きだったそうで。
   ああでも、西部より先に王城戦なのが、相変わらずにちょっと不満な当方でもあり。
   だってさ、決勝で待つ、が、とうとう実現できなかったんですものね。
   強い強いと下馬評は讃えていたけれど、
   デンタル何とかって一撃を進さんもご披露したそうだけれど。
   実際に当たってみて…春よりどれほど強くなっているのか、
   ワクワクドキドキと楽しみですvv

ご感想はこちらへvv**

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